「歯ぐきが腫れている ・ ・ ・」
「歯みがきをすると歯ぐきから血が出る ・ ・ ・」
このような症状のある方は、もしかしたら歯周病にかかっているかもしれません。
多くの方にとって歯周病は、「歯ぐきから血が出る病気」という認識かもしれませんが、歯周病はみなさんが思っているよりずっと深刻な病気です。病気が進行すると、歯を支えている歯ぐきの骨が痩せ、歯がグラグラになり、さらに悪化すると歯が抜け落ちてしまうこともあります。
私たち日本人が歯を失う原因の第1位は、実は虫歯ではなくて歯周病であるという事実をご存じでしょうか? これは、40歳を過ぎた方の半数近くがこの病気を患っているのに、多くの方に「自分が歯周病にかかっている」という自覚がなく、この病気に対して適切な処置がなされていないことが大きな理由となっています。
歯周病になっても初めの頃は痛みや腫れなどの自覚症状をあまり感じませんが、実は歯ぐきの内部ではゆっくりと静かに病気が進行しています。歯周病の初期は、歯ぐきから少し血が出たり、若干の異和感を覚えたりする程度で、そのまま忘れ去られてしまうことも少なくありません。あるいは、丁寧に歯みがきをしていたら気にならなくなったなどの理由で、歯周病の治療を受けることなく放置してしまう方も多いようです。
しかし、ある日突然、歯ぐきが大きく腫れ、咬んだときの痛みがあらわれ ・ ・ ・。そうなると、みなさん慌てて歯医者に行きますが、そのときにはすでに歯周病は結構進行しています。これが、歯周病が「沈黙の病気(サイレントディジーズ)」と呼ばれる所以(ゆえん)です。
歯周病を放置していると、歯ぐきの骨が徐々に減り、ひどくなると歯を抜かざるを得なくなります。
ところで、みなさんは歯を失ってしまうということを、どのように考えていますか? 「前歯がなくなると困るけど、奥歯なら1本くらいなくても平気」と思っている方が意外に多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなみなさんに知っていただきたいのが、たかが1本の奥歯の喪失がもたらす影響です。奥歯を抜けたままにしておくと、奥歯から徐々に咬み合わせが乱れ、残った歯に負担がかかるようになります。そうなると、残った歯は徐々に弱ってグラグラになっていき、結果として、ドミノ倒しのように次々と歯を失うことになってしまうのです(咬合崩壊)。
■早期発見で歯周病から健康を守りましょう
歯の健康は意識していても、“歯ぐき”の健康には意識が向かないという方は多いと思います。歯を支える歯ぐきの健康を維持することは、お口の健康を守っていくうえでとても重要なことです。歯ぐきに異変を感じたら、あるいは異変を感じていなくても40歳を過ぎたら、一度歯周病の検査を受けられることをおすすめします。
歯周病は初期症状に乏しい病気ですが、以下のような症状があったら歯周病の可能性が疑われます。当てはまる項目がある方は、お早めに検査を受けることをおすすめします。
歯周病は、歯周病菌によって歯周組織に炎症がおきる病気です。歯と歯ぐきの間の歯周ポケットに溜まったプラークに棲む歯周病菌によって、歯を支える歯ぐきの骨が減っていく病気です。悪化すると、歯がグラグラになったり、抜けたりするため、しっかりと咬んで食事ができなくなってしまいます。
歯周病の影響はお口のなかだけにとどまらず、以下のように全身に与える影響が注目されています。お口のなかの病気だと軽視せず、初期のうちに適切な治療を受けることが大切です。
心臓疾患 | 歯周病が進行すると動脈硬化が促進され、心筋梗塞や狭心症などが引きおこされるというデータがあります。 |
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誤嚥性ごえんせい肺炎 |
歯周病菌が気管から肺に入ると、誤嚥性肺炎が引きおこされることがあります。 |
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糖尿病 | 歯周病が悪化すると糖尿病も悪化し、歯周病が改善すると血糖値が安定して糖尿病も改善したという報告があります。 |
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早産・低体重児出産 | 妊婦さんが歯周病にかかると早産や低体重児出産をまねく確率が約7倍にまで上がるというデータがあります。 |
歯周病は歯周病菌によって引きおこされる病気ですが、歯周病菌は誰のお口のなかにもわずかながら存在するものです。歯周病の本当の原因は、「歯周病菌が増殖しやすいお口の環境をつくってしまうこと」にあると言えるでしょう。お口の環境が悪化する主な原因としては、以下の3つの問題が挙げられます。
歯周病は、歯周ポケットに溜まったプラーク中の歯周病菌によって引きおこされる病気です。毎日の歯みがきや歯医者での定期的な口腔ケアでしっかりとプラークが除去できていないと、お口のなかの細菌環境が変化し、歯周病が進行・悪化しやすくなります。
歯周病は、日々のよくない生活が原因で徐々に進行していく生活習慣病です。不規則な生活や病気、疲労、そして老化など、体の抵抗力の低下や歯ぐきへの血行の悪化によって、歯周病は進行・悪化していきます。
咬み合わせが乱れていたり、お口のなかに咬み合わせの合っていないかぶせ物があると、一部の歯に過剰な負担がかかって歯周ポケットが深くなり、歯周病が進行・悪化しやすくなります。また、歯ぎしりや食いしばりの癖があると、歯ぐき全体に過剰な力が加わり、歯周病が進行・悪化していきます。
これまでの歯周病治療は、「いかに歯周病菌を減らすか」という問題に対して、増加した細菌を除去することばかりに注目していました。しかし、歯周病の根本的な解決を図るためには、「なぜ細菌が増えてしまうのか?」という原因を追究し、「細菌が増加しにくいお口の環境をつくるためにはどうしたらいいのか?」という観点を治療に反映させることが重要になってきます。
当院では、歯周病菌を減らす歯周病基本治療はもちろんのこと、咬み合わせの改善や生活習慣・ライフスタイルの見直し、メインテナンスによる経過観察など、総合的なアプローチを通して歯周病の改善を図っています。
適切な歯みがき方法を身に付けることにより、プラークが溜まりにくい口腔内環境をつくります。プラークを増やさないようにすれば、歯周病の効果的な予防・治療につながります。
スケーラーという器具を使って、歯や歯の根元に付着したプラーク・歯石を除去します。歯や歯の根元の表面をなめらかにして、プラークの再付着を防止します。
歯の表面やすき間などを滑沢に研磨することで、歯の表面のバイオフィルムを破壊して歯周病の原因となる悪い細菌を除去し、いい細菌が定着しやすくなるよう、お口の環境を整えていきます。
歯周病を進行・悪化させる原因となっている生活習慣を見直すための生活指導をおこないます。
歯ぐきを切開して歯の根元を露出させ、深い歯周ポケット内部にこびりついた歯石や感染した歯ぐきを除去します。
咬み合わせの乱れや咬み合わせが合っていない補綴物(ほてつぶつ)、歯ぎしり・食いしばりなどの癖によって歯に強い力が継続的に加わると、歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)が広がり、そこにプラークが溜まり歯周病の進行が促されます。咬み合わせを改善したり、咬む力をコントロールしたりすることで歯周病の改善につながります。
歯周病のなかには、真菌(カビ)によって改善が阻害されているタイプがあります。真菌が悪影響を及ぼしていることが疑われる場合は位相差顕微鏡を用いた検査をおこない、真菌が検出されたら抗真菌剤を使った歯周病治療をおこないます。
患者様のお口のなかの汚れを採取し、歯周病菌やカビ菌の検査をおこなうのに用いるのが位相差顕微鏡です。位相差顕微鏡による検査では、現在のお口のなかの細菌の状態を確認でき、今どうなっているのかを目で見て知ることができます。
歯周病は、風邪のように治る一過性の病気ではありません。日々の生活習慣や老化など、全身の抵抗力と深く関わった慢性疾患です。ですから、いったん病状が改善したから終わりというものではありません。歯周病の治療後は、処置によって得られたお口の安定した状態を保つために、患者様のお口や体の状態に合わせたメインテナンスをすることが大切になってきます